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高粘度液体の塗布も解決!工業用ディスペンサーの選定ポイントを解説

高粘度液体の塗布も解決!工業用ディスペンサーの選定ポイントを解説

高粘度液体の塗布も解決!工業用ディスペンサーの選定ポイントを解説

電子部品の接着、自動車部品のシーリング、医療機器の組み立てなど、現代のモノづくりにおいて液体材料の精密塗布は欠かせない工程です。
特に、接着剤やシール材、グリス、ペーストといった「高粘度液体」の扱いは、多くの製造現場で課題となっています。

「塗布量が安定しない」「糸引きがひどい」「ノズルがすぐ詰まる」といったトラブルは、製品の品質低下や生産性の悪化に直結します。
これらの課題を解決する鍵は、使用する液体材料と塗布プロセスに最適な「工業用ディスペンサー」を選定することです。

この記事では、生産技術者や設備担当者の方々に向けて、高粘度液体の塗布における課題から、それらを解決するディスペンサーの種類、そして失敗しないための具体的な選定ポイントまでを網羅的に解説します。
最適な一台を見つけ、品質と生産性の向上を実現するための羅針盤として、ぜひご活用ください。

目次

なぜ高粘度液体の塗布は難しいのか?現場でよくある5つの課題

高粘度液体は、水のような低粘度の液体とは異なり、その物性から様々な塗布トラブルを引き起こします。まずは、多くの現場で共通して聞かれる代表的な課題を5つ見ていきましょう。

課題1:糸引き・タレが発生し、ワークが汚れる

高粘度液体は粘りが強いため、塗布後にノズルを離す際に液が切れにくく、糸を引くように伸びてしまう「糸引き」が発生しがちです。
また、塗布箇所から液体が垂れてしまう「タレ」も問題となります。
これらは製品の外観を損なうだけでなく、意図しない部分に付着して機能的な不具合を引き起こす原因にもなります。

課題2:吐出量が安定せず、品質にばらつきが出る

液体の粘度は、温度や圧力の変化に敏感です。
特に高粘度液体は、わずかな温度変化でも粘度が大きく変わり、吐出量がばらつくことがあります。
吐出量が多すぎればコスト増に、少なすぎれば接着強度不足などの品質問題に直結するため、安定した定量吐出は極めて重要です。

課題3:気泡が混入し、接着不良や外観不良の原因になる

材料をシリンジやタンクに充填する際や、圧送する過程で、液体内に気泡が混入してしまうことがあります。
この気泡が塗布時に潰れずに残ると、接着面積の減少による強度不足や、シール材の気密性低下、ポッティング(樹脂充填)後の外観不良などを引き起こします。
高粘度液体は流動性が低いため、一度混入した気泡が抜けにくいという特性があります。

課題4:ノズルが詰まり、生産ラインが停止する

高粘度液体、特に硬化性の接着剤などを使用している場合、ノズル先端で液体が固まってしまい「ノズル詰まり」が発生することがあります。
また、フィラー(粒子)を含んだ材料では、フィラーがノズル先端に堆積して詰まりの原因となることも。
ノズル詰まりは、生産ラインの停止(チョコ停)に繋がり、生産性を大きく低下させる厄介な問題です。

課題5:摩耗性の高い材料で、装置の寿命が縮まる

導電性ペーストや放熱材などに含まれる金属フィラーやセラミックフィラーは、非常に硬く摩耗性が高いのが特徴です。
このような材料をディスペンサーで圧送すると、ポンプやスクリュー、シリンダーといった接液部の部品が摩耗し、ディスペンサー装置の寿命を縮めてしまいます。
部品の摩耗は吐出精度の低下にも繋がるため、材料特性に合わせた装置の選定が不可欠です。

高粘度液体に対応するディスペンサーの主な種類と特徴

前述した課題を解決するため、様々な吐出方式のディスペンサーが開発されています。ここでは、高粘度液体の塗布で主に使用される代表的な5つの種類と、その特徴を解説します。

スクリュー(オーガ)式ディスペンサー:高精度でフィラー入り材料にも強い

仕組みと特徴

モーターでスクリュー(ネジ状のロッド)を回転させ、その推進力で液体を定量的に押し出して吐出する方式です。
スクリューの回転量を精密に制御することで、エア圧送式のように液体の粘度変化や材料残量の影響を受けにくく、非常に安定した高精度な吐出が可能です。

メリット・デメリット

メリットデメリット
吐出精度が非常に高い構造が複雑で、洗浄・メンテナンスに手間がかかる
粘度変化の影響を受けにくい摩耗性のある材料の場合、スクリューやシリンダーの定期的な交換が必要
フィラー入りの高粘度材料に強い他の方式に比べて高価になる傾向がある
連続した線引き塗布が得意

主な用途: クリームはんだ、導電性ペースト、放熱グリス、エポキシ系接着剤など

容積計量式ディスペンサー:液体の物性変化に影響されにくい

仕組みと特徴

プランジャー(ピストン)やギアポンプなどを用いて、計量室内の一定体積分の液体を機械的に押し出して吐出する方式です。
吐出量を体積で管理するため、液体の粘度や比重、温度変化といった物性の影響をほとんど受けない、極めて高い定量安定性を誇ります。

メリット・デメリット

メリットデメリット
最高の定量安定性を誇る構造が複雑で、装置が大型化・高価格化しやすい
液体の物性変化(粘度、温度など)に強い連続吐出には向かず、点塗布や充填が主となる
2液混合材料の比率管理にも適しているメンテナンスに専門知識が必要な場合がある

主な用途: アンダーフィル、LEDのポッティング、オイルの精密充填、電解液注入など

プランジャー式ディスペンサー:超高粘度液をパワフルに吐出

仕組みと特徴

シリンダー内のプランジャー(ピストン)を機械的に動かし、その力で液体を押し出す方式です。
エア圧では押し出せないような、流動性の低いペースト状の超高粘度材料でも、高い圧力でパワフルに吐出できるのが特徴です。

メリット・デメリット

メリットデメリット
超高粘度材料(グリス、シール材など)に対応可能構造上、吐出時に脈動が発生しやすい
高い吐出圧力を得られる連続的な線引き塗布の精度は他の方式に劣る場合がある
シンプルな構造で比較的堅牢

主な用途: 高粘度グリス、自動車用シーラント、マスチック接着剤、液状ガスケットなど

ジェットディスペンサー(非接触式):高速塗布でタクトタイムを短縮

仕組みと特徴

ノズルをワーク(対象物)に接触させることなく、液体を「飛ばして」塗布する方式です。
ピエゾ素子やエア圧を利用して液滴を高速で射出します。
ワークの凹凸や高さの違いを気にする必要がなく、Z軸の上下動が不要なため、圧倒的な高速塗布を実現します。

メリット・デメリット

メリットデメリット
圧倒的な塗布速度(タクトタイム短縮)対応できる粘度範囲に上限がある(近年は高粘度対応モデルも増加)
狭小部や凹凸のあるワークへの塗布が得意液体の物性(粘度、表面張力など)によって吐出安定性が左右される
ニードル摩耗やワークへの接触による損傷がない飛散(サテライト)が発生する可能性がある

主な用途: スマートフォンの筐体接着、カメラモジュールの組み立て、基板へのアンダーフィルや防湿剤コーティングなど

チューブ式ディスペンサー:シンプル構造でメンテナンスが容易

仕組みと特徴

ローラーが弾性のあるチューブをしごくように回転し、その蠕動(ぜんどう)運動によって液体を送り出して吐出する方式です。
液体がチューブ内しか通らないため、本体の洗浄が不要で、チューブを交換するだけでメンテナンスが完了するのが最大の利点です。

メリット・デメリット

メリットデメリット
洗浄が非常に簡単で、液替えも容易吐出精度は他の方式に比べて劣る
構造がシンプルで比較的安価構造上、脈動が発生しやすい
嫌気性接着剤など、金属との接触を嫌う液体に適しているチューブの劣化により、定期的な交換が必要

主な用途: 瞬間接着剤、UV硬化接着剤、溶剤、インクなどの塗布

【重要】失敗しない!高粘度液体用ディスペンサー選定7つのポイント

自社の工程に最適なディスペンサーを選ぶためには、何を基準に考えればよいのでしょうか。ここでは、絶対に外せない7つの選定ポイントを具体的に解説します。

ポイント1:液体の特性を正確に把握する

ディスペンサー選定の最も重要な第一歩は、使用する液体材料の特性を正確に理解することです。メーカーから提供されるデータシート(SDS、TDS)を確認し、以下の項目を必ずチェックしましょう。

粘度とチクソ性

粘度は液体の流れにくさを示す指標で、「mPa・s」や「Pa・s」という単位で表されます。
この数値がディスペンサーの対応範囲内であるかを確認します。
また、高粘度液体では「チクソ性(チキソトロピー性)」も重要です。
チクソ性とは、力を加えると粘度が下がり、静置すると粘度が元に戻る性質のことです。
チクソ性が高い液体は、塗布時にはスムーズに吐出され、塗布後はタレにくいという利点がありますが、この性質を考慮した圧力制御や吐出設定が必要になります。

フィラー(粒子)の有無、種類、含有率

液体に機能性を持たせるために添加される粒子を「フィラー」と呼びます。
例えば、導電性ペーストには銀フィラー、放熱材にはアルミナや窒化ホウ素といったセラミックフィラーが含まれます。
フィラーの種類(硬さ、形状)や含有率によっては、スクリューやポンプの摩耗を早めたり、ノズル詰まりの原因になったりします。
摩耗性の高いフィラーを含む場合は、耐摩耗性の高い材質(超硬合金、セラミックスなど)を接液部に使用したディスペンサーを選ぶ必要があります。

ポイント2:要求される塗布精度を明確にする

「どのくらいの量を、どれくらいの精度で塗布したいのか」を具体的に数値化することが重要です。

  • 吐出量: 1ショットあたりの吐出量(mg, μLなど)
  • 吐出精度(繰り返し精度): 吐出量のばらつきが許容される範囲(例: ±3%以内)
  • 塗布幅・高さ: 線引き塗布の場合の線の太さや高さ
  • 位置決め精度: 狙った位置に対して、どれだけ正確に塗布する必要があるか

これらの要求精度が高ければ高いほど、スクリュー式や容積計量式といった高精度なディスペンサーが必要になります。

ポイント3:塗布形状とタクトタイムを考慮する

どのような形状で塗布するのか、また1つの製品にかける時間はどのくらいかによっても、最適な方式は変わります。

  • 点塗布(ドット): 微小な点を多数打つ場合は、高速なジェットディスペンサーが有利です。
  • 線引き塗布(ビード): 途切れのない綺麗な線を描く場合は、連続吐出が安定しているスクリュー式が適しています。
  • 充填(ポッティング): 一定量を正確に充填する場合は、容積計量式が高い能力を発揮します。

生産ラインのタクトタイムが非常に短い場合は、Z軸の上下動がなく高速なジェットディスペンサーが第一候補となるでしょう。

ポイント4:供給方式(シリンジ、カートリッジ、タンク)を選ぶ

液体材料をどのようにディスペンサーに供給するかも重要な要素です。

供給方式特徴メリットデメリット
シリンジ注射器状の容器。少量生産や研究開発向け。手軽で準備が簡単。液替えが容易。容量が小さい。材料の充填に手間がかかる。
カートリッジシーリング材などで使われる筒状の容器。シリンジより大容量。材料メーカーの容器をそのまま使える場合がある。専用のホルダーや圧送装置が必要。
タンク(ペール缶など)大容量のタンクからポンプで圧送。大量生産向け。材料交換の頻度が少ない。自動化ラインに適している。設備が大掛かりになる。初期投資が高い。洗浄が大変。

生産量や材料の荷姿、交換の手間などを総合的に考慮して、最適な供給方式を選びましょう。

ポイント5:メンテナンス性(洗浄・部品交換)を確認する

ディスペンサーは精密機械であり、日々のメンテナンスが性能維持の鍵となります。

  • 洗浄のしやすさ: 液替えや一日の作業終了時に、接液部をどれだけ簡単に分解・洗浄できるか。特に硬化性の液体を使う場合は重要です。
  • 部品交換の頻度とコスト: スクリューやシール材などの消耗品は、どのくらいの頻度で交換が必要か。また、その部品コストはどのくらいか。
  • メンテナンスの簡易性: 特別な工具や専門知識がなくても、現場の作業者がメンテナンスを行えるか。

メンテナンスにかかる時間(ダウンタイム)やランニングコストも、ディスペンサー選定の重要な評価項目です。

ポイント6:自動化設備との連携は可能か

ディスペンサーを卓上ロボットや多関節ロボットに搭載し、自動塗布ラインを構築するケースは非常に多いです。
その際、上位の制御装置(PLCなど)とスムーズに連携できるかがポイントになります。
I/O(デジタル入出力)信号での単純なON/OFF制御だけでなく、RS-232Cやイーサネットなどの通信インターフェースを介して、塗布条件の変更や稼働状況のモニタリングができるかを確認しておきましょう。

ポイント7:必ず塗布テストで性能を評価する

カタログスペックだけでは、実際の生産現場でうまくいくかは分かりません。
液体の微妙な特性やワークの材質、温湿度環境など、様々な要因が塗布結果に影響を与えるからです。
ディスペンサーメーカーの多くは、テストルームを完備しており、実際の液体とワークを持ち込んで塗布テストを行うことができます。
導入を決定する前に必ずこのテストを実施し、「要求通りの塗布が実現できるか」「操作性やメンテナンス性に問題はないか」を自身の目で確かめることが、失敗を避けるための最も確実な方法です。

高粘度液体の塗布品質をさらに高める周辺機器

ディスペンサー本体の性能を最大限に引き出し、さらに安定した塗布品質を実現するためには、周辺機器の活用が非常に効果的です。

液体の粘度を安定させる「温調(加温)装置」

高粘度液体は温度による粘度変化が大きいため、シリンジやバルブ、チューブなどを一定の温度に保つことで、吐出量を安定させることができます。
ヒーターや温水ジャケットなどを利用して材料を加温し、粘度を下げて吐出しやすくするアプローチも一般的です。

材料内の気泡を取り除く「脱泡装置」

材料をシリンジやタンクに充填する前に、攪拌脱泡機や真空脱泡装置を使ってあらかじめ気泡を取り除いておくことで、塗布時の気泡混入トラブルを大幅に削減できます。
特に精密な塗布が求められる工程では必須のプロセスと言えます。

正確な位置決めを実現する「画像認識装置」

ロボットにカメラ(ビジョンセンサー)を取り付け、ワークの位置ズレを画像認識で検出し、塗布位置を自動で補正するシステムです。
これにより、治具への製品のセットばらつきなどを吸収し、常に正確な位置への塗布が可能になります。

塗布状態を検査する「塗布検査装置」

塗布後に、塗布された液体の幅、途切れ、塗布量などをカメラで自動検査する装置です。
不良品の流出を防ぎ、品質を保証するために重要な役割を果たします。
また、検査結果をフィードバックしてディスペンサーの吐出条件を自動調整する、より高度なシステムも存在します。

まとめ:最適なディスペンサー選定が品質と生産性を劇的に改善する

高粘度液体の塗布は、多くの課題をはらむ難しい工程ですが、その解決策は必ず存在します。
本記事で解説した内容を振り返ってみましょう。

  • 高粘度液体の塗布課題: 糸引き・タレ、吐出量の不安定、気泡混入、ノズル詰まり、装置摩耗など、課題を正しく認識することが第一歩です。
  • ディスペンサーの種類: スクリュー式、容積計量式、プランジャー式、ジェット式、チューブ式など、各方式のメリット・デメリットを理解し、候補を絞り込みます。
  • 7つの選定ポイント: 「液体特性」「要求精度」「塗布形状」「供給方式」「メンテナンス性」「自動化連携」「塗布テスト」という7つの視点で多角的に評価することが、失敗しないための鍵です。

最適なディスペンサーを選定することは、単に設備を導入することではありません。
それは、製品の品質を安定させ、生産性を向上させ、材料ロスを削減し、ひいては企業の競争力を高めるための重要な戦略的投資です。

まずは自社の課題を整理し、この記事を参考にディスペンサーメーカーの専門家へ相談することから始めてみてはいかがでしょうか。
必ずや、あなたの現場の課題を解決する最適な一台が見つかるはずです。

最終更新日 2025年12月5日 by sticep